米国の雇用統計がなぜ注目されるのか
毎月第1金曜日(米国時間8:30、日本時間22:30)に発表される米国雇用統計は、重要な指標とされています。日本のニュースサイトなどで速報として扱われるくらい、注目度が高いものです。
「毎月定例発表するなら、そんなに変わらなくない?注目する必要があるの?」と投資初心者なら不思議に感じますが、雇用統計の発表直後は、その内容を受けて大きくマーケットが動くことが多いのです。そのため、投資家は固唾(かたず)をのんで発表を見守ると言われるくらい、注目されています。
なぜ、雇用統計はマーケットに大きく影響するのでしょうか。投資初心者向けにその理由を解説します。
雇用統計とは?
毎月第1金曜日(第2金曜日の場合も)に発表される雇用統計は、主要な経済指標の一つで、発表の前月の雇用動向を調査して、数値でまとめたものです。
雇用統計の項目は、失業率、平均時給、非農業部門雇用者数、金融機関就業数、製造業就業数、建設業就業数など10数項目にわたって、まとめられます。
中でも一番の注目項目は、非農業部門雇用者数と失業率です。
非農業部門雇用者数とは
非農業部門雇用者数は、農業以外の事業を行う企業の給与支払帳簿を基に集計されています。前月に就業している人数に対して、何人増えたか減ったか、前月比の増減で表しています。
失業率とは
失業率は、米国内の失業者を、労働人口で割って、算出されています。
雇用統計のうち、非農業部門雇用者数、失業率が重要
でも、なぜ米国の非農業部門雇用者数と失業率に注目するのでしょうか。それは米国が世界経済の中心にあるからです。世界GDPに占める米国の割合は24.6%と4分の1にもなっています(2017年名目GDP。出所:IMF[国際通貨基金])。つまり、米国が不況になると、全世界が悪影響を受けるため、世界中が注目しているのです。
1:米国のGDPを支える個人消費
米国は雇用流動性が高く、転職・退職・解雇が日本より気軽に行われています。そのため、1カ月でも就業数や失業率に変化が出ます。
「働いている人が減っていれば、所得のある人も減り、物を買う人が減り、不景気になる」、逆に「働いている人が増えていれば、所得のある人も増え、物を買う人が増え、好景気になる」という経済動向が想定されるのです。
さらにもう一つ大きな点は、米国のGDP(国内総生産)が個人消費に支えられていることがあります。GDPに占める個人消費の割合は日本が約60%、中国が約35%、米国は約70%です。米国経済は個人消費に左右される度合いが高いため、失業率が低く、非農業部門雇用者数が増えれば、景気が良く循環しているということになるのです。
2:FRBが雇用統計を重視して政策金利を決定する
このように雇用統計は重要な経済指標ですが、FRB(米連邦準備制度理事会)は、この雇用統計に注視して、米国の重要な政策金利を決めています。利上げをする、しないという政策金利の決定は、株式、為替、債券などあらゆるマーケットに影響を及ぼします。その利上げ判断の基になるデータの一つが雇用統計なのです。
リーマン・ショック時の雇用統計は?
投資初心者でも「リーマン・ショック」という言葉を聞いたことはありますよね。リーマン・ショックは、2008年9月に起きた米国発の「100年に一度の大不況」を指します。
このリーマン・ショックの影響は雇用統計にどう表れていたのでしょうか。リーマン・ショックの影響を2007~2010年の数値で見てみましょう。
非農業部門雇用者数
2010年 | 2009年 | 2008年 | 2007年 | |
1月 | 1.4 | ▲77.9 | ▲7.2 | 14.6 |
2月 | 3.9 | ▲72.6 | ▲14.4 | 11.3 |
3月 | 20.8 | ▲75.3 | ▲12.2 | 17.7 |
4月 | 31.3 | ▲52.8 | ▲16.0 | 8.0 |
5月 | 43.2 | ▲38.7 | ▲13.7 | 19.0 |
6月 | ▲17.5 | ▲51.5 | ▲16.1 | 6.9 |
7月 | ▲5.4 | ▲34.6 | ▲12.8 | 5.7 |
8月 | ▲5.7 | ▲21.2 | ▲17.5 | 7.4 |
9月 | ▲4.1 | ▲22.5 | ▲32.1 | 8.1 |
10月 | 17.2 | ▲22.4 | ▲38.0 | 14.0 |
11月 | 7.1 | 6.4 | ▲59.7 | 6.0 |
12月 | 12.1 | ▲10.9 | ▲68.1 | 4.1 |
失業率
2010年 | 2009年 | 2008年 | 2007年 | |
1月 | 9.7 | 7.7 | 5.0 | 4.6 |
2月 | 9.7 | 8.2 | 4.8 | 4.5 |
3月 | 9.7 | 8.6 | 5.1 | 4.4 |
4月 | 9.9 | 8.9 | 5.0 | 4.5 |
5月 | 9.7 | 9.4 | 5.4 | 4.4 |
6月 | 9.5 | 9.5 | 5.5 | 4.6 |
7月 | 9.5 | 9.4 | 5.8 | 4.6 |
8月 | 9.6 | 9.7 | 6.1 | 4.6 |
9月 | 9.6 | 9.8 | 6.2 | 4.7 |
10月 | 9.6 | 10.1 | 6.6 | 4.7 |
11月 | 9.8 | 10.0 | 6.9 | 4.7 |
12月 | 9.4 | 10.0 | 7.4 | 5.0 |
一方、失業率も2008年前半は5%前後だったものが、徐々に高水準となり2009年後半には10%前後を推移するまでになりました。
このように雇用統計は米国景気を写し出す鏡。投資初心者も毎月第1金曜日の夜に、雇用統計をぜひチェックしてみましょう。
まとめ●米国の雇用統計がなぜ注目されるのか |
世界経済の中心にある米国の景気がいいか、悪いか、その動向をつかむことができるから |